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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)5856号 判決

原告 株式会社山本海運

被告 国 ほか四名

代理人 布村重成 松本捷一 ほか一五名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金二六九九万六一九九円及びこれに対する内金一八七五万円については訴状送達の日の翌日から、内金八二四万六一九九円については昭和五六年四月一六日からそれぞれ右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら全員)

1  主文同旨

2  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  有限会社三基實業(以下「三基實業」という。)は、昭和五〇年七月ごろ、宮城県牡鹿郡女川町内にある株式会社三徳商会(以下「三徳商会」という。)の所有地内に、硫酸ピツチ及び油泥などの産業廃棄物を入れたドラム罐、石油罐及びプラスチツク容器など合計約二〇〇〇本(以下「本件廃棄物」という。)を搬入した。

(二)  その後、三基實業は、本件廃棄物を右の場所で野積みのまま長く放置していたために、本件廃棄物から出る悪臭が付近住民を悩ますに至り、その結果、付近住民から、被告宮城県の地元警察に対し、本件廃棄物について、悪臭で我慢できない状態であり、また、非常に危険であるとの苦情が相次いで出されることとなつた。

(三)  そのため、被告宮城県の警察本部においては、昭和五一年六月ころ、三基實業の担当者を、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「処理法」という。)の違反により摘発し、捜査を開始するという事態となつた。また、同警察本部より通報を受けた被告宮城県の環境衛生課においても、同じころ、三基實業の代表取締役旧姓穴吹こと西田薫(以下「穴吹」という。)に対し、本件廃棄物の撤去を命令し、又は、その旨の行政指導をなした(以下「本件行為(一)」という。)

(四)  穴吹は、被告宮城県の本件行為(一)によつて、本件廃棄物を撤去せざるをえない事態に陥つたが、三基實業は、当時事実上破産状態にあつて業務活動をしていなかつたことから、当時穴吹自身が相談役を勤めていた大邦実業株式会社(以下「大邦実業」という。)に対し、本件廃棄物の撤去及び処理を委託した。

(五)  大邦実業は、穴吹からの右委託に基づき、昭和五一年九月一三日、原告に対し、廃油関係入りと称するドラム罐合計一五〇〇ないし一七〇〇本の、宮城県女川港から愛媛県大三島港までの海上運搬を代金一二〇万円で委託した(以下「本件運搬契約」という。)。

(六)  原告は、本件運搬契約に基づき、昭和五一年九月一九日、海洋産業株式会社からの傭船「高共丸」を宮城県女川港に回航させ、同港で、大邦実業の指示により、本件廃棄物のうち、ドラム罐入り一七二六本、石油罐入り一〇九本、プラスチツク容器入り一〇本(以下「本件積荷」という。)を大邦実業の関係者より廃油入りとの説明を受けて同船に積載させ。同日、同船を愛媛県大三島港に向けて出港させた。

(七)  被告宮城県は、同県の環境衛生課の担当者をして、右の本件積荷の高共丸への積載及び同船の出港に立会わせ、終始監督していたのであるが、その間、原告ないし高共丸の関係者に対し、本件積荷が産業廃棄物であることを告げず、また、それについて何らの注意、警告をなさなかつたうえ、本件積荷の荷揚地は何処か、荷揚地までの運搬について荷送人、荷受人及び運搬業者がそれぞれ誰であるか、荷送人、荷受人及び運搬業者がそれぞれ産業廃棄物処理業の許可を受けた業者であるか、運搬業者は本件積荷が産業廃棄物であることを了知しているか、荷揚地までの運搬は適法かつ適正であるか、荷揚げした本件積荷の処理は誰が何処の如何なる処理施設に委託して行なう予定であるのか、その処理施設は本件積荷の処理を実際に引き受けているのか、それらの処理をなす者は産業廃棄物処理業の許可を受けた業者であるか、荷揚地の都道府県は、当該区域内への本件積荷の搬入及び当該区域内における本件積荷の処理を了解し、承認しているかなどの具体的事情についての調査、確認を一切なさないまま、漫然と、右積載及び出港を許した(以下「本件行為(二)」という。)うえ、被告愛媛県に対し、高共丸が本件積荷を積載して同県に向かつている旨連絡した。

2(一)  原告は、高共丸の宮城県女川港出港直後、大邦実業より、本件積荷の荷揚地を愛媛県今治港に変更する旨の指示を受け、昭和五一年九月二〇日、同船を同港に寄港させた。

(二)  ところが、原告は、右同日、高共丸を愛媛県今治港へ入港させるに際し、被告愛媛県及び被告国(今治海上保安部)より、本件積荷の内容物は廃油などではなく、硫酸ピツチ及び油泥などの産業廃棄物であると指摘されたうえ、同船の同港への入港及び同港での荷揚げを禁止する旨の命令又はその旨の行政指導(以下「本件行為(三)」という。)を受けたため、その入港及び荷揚げをすることができなかつた。

(三)  右入港及び荷揚拒否の事実は、昭和五一年九月二一日、新聞等によつて大々的に報道されて全国的に知られるところとなつた。

3  その後、原告は、大邦実業の指示により、昭和五一年九月二三日、高共丸を広島県三重糸崎港に寄港させたが、同港でも、被告広島県及び被告国(尾道海上保安部)より、本件積荷が産業廃棄物であることを理由として、同船の同港への入港及び同港での荷揚げを禁止する旨の命令又はその旨の行政指導(以下「本件行為(四)」という。)を受けたため、その入港及び荷揚げをすることができなかつた。

4  次いで、原告は、大邦実業の指示により、昭和五一年九月二五日、高共丸を香川県小豆郡豊島港に回航させたが、同港でも、被告香川県及び被告国(高松海上保安部)より、本件積荷が産業廃棄物であることを理由として、同船の同港への入港及び同港での荷揚げを禁止する旨の命令又はその旨の行政指導(以下「本件行為(五)」という。)を受けたため、その入港及び荷揚げをすることができず、同年一〇月二一日までの間、同船を同港付近の海上で停泊させざるをえなかつた。

5(一)  以上の事態が発生した後、大邦実業は、倒産し、その唯一の営業所であつた今治営業所も閉鎖したため、同社の力では、本件積荷を処理して事態を収拾することが全くできない状況となつた。

(二)  そこで、やむなく、原告は、厚生省の指導もあり、本件積荷を自己の費用で処理することとし、昭和五一年一〇月二一日、高共丸を北海道苫小牧港へ向けて出港させたが、途中荒天のため、急きよ荷揚地を変更して、同年同月二四日、同船を北海道室蘭港に寄港させたところ、同港でも、室蘭市より、本件積荷が産業廃棄物であることを理由として、同船の同港への入港及び同港での荷揚げを禁止する旨の命令又はその旨の行政指導を受けたため、その入港及び荷揚げができず、同年一一月一六日までの間、同船を同港付近の海上で停泊させざるをえなかつた。

(三)  その後、原告は、昭和五一年一一月一六日、高共丸を北海道苫小牧港に寄港させ、同港で、本件積荷のうちドラム罐七七本分を荷揚げして、自己の費用で、札幌公清企業組合に委託してその処理をなした。

(四)  更に、原告は、昭和五一年一一月二二日、高共丸を東京港に寄港させ、同港で、本件積荷の残り全部を荷揚げして、自己の費用で、豊田ケミカルエンジニアリング株式会社、東日本処理企業株式会社及び協同組合川崎廃酸処理センターにそれぞれ委託してその処理をなした。

6  以上の結果、原告は、被告らの本件行為(一)ないし(五)の一連の行為によつて、左記の損害(以下「本件損害」という。)を被るに至つた。

(一) 本件積荷の処理費用として、右合計五六五万六一〇〇円(以下「本件損害(一)」という。)

(1) 札幌公清企業組合への委託分 四二万三四〇〇円

(2) 豊田ケミカルエンジニアリング株式会社への委託分 五〇〇万円

(3) 東日本処理企業株式会社への委託分 一一万七二〇〇円

(4) 協同組合川崎廃酸処理センターへの委託分 一一万五五〇〇円

(二) 本件積荷の荷揚げによる荷役及びその陸上運送の各費用として、右合計三九五万七〇三円(以下「本件損害(二)」という。)

(1) 北海道苫小牧港における荷役及び処理工場へのトラツク運送の費用分 四三万四一五六円

(2) 東京港における荷役及び処理工場へのトラツク運送の費用分 三五一万六五四七円

(三) 高共丸の長期間の運航(停泊を含む)に伴う滞船料として、合計一八七五万円(以下「本件損害(三)」という。)

(四) 高共丸の長期間の運航(停泊を含む)及び本件積荷の産業廃棄物の漏出による腐触による同船の船体修理費用として、合計四二九万五四九六円(以下「本件損害(四)」という。)

7(一)  被告らの本件行為(一)ないし(五)の各行為は、いずれも、当該被告らの担当職員の職務行為としてなされたものであり、かつ、違法な公権力の行使に該当する行為である。

(二)  被告らの本件行為(一)並びに(三)ないし(五)の各行為は、いずれも、強制にかかる命令的行為であつたものであり、仮にそうでなく、行政指導にとどまる行為であつたものとしても、処理法によれば、都道府県知事は一定の場合に事業者に対し産業廃棄物の運搬若しくは処分又は保管の方法の変更その他必要な措置をとるべきことを命ずることができ(同法一二条四項)、この命令に違反した者に対しては刑罰が課せられることとなつており(同法二六条)、また、許可を得ている産業廃棄物処理業者が同法又は同法に基づく処分に違反する行為をなしたときはその許可の取消又は業務の停止を命ぜられることとなつており(同法一四条四項、七条六項)、更に、都道府県知事の許可を得ずして産業廃棄物の収集、運搬又は処分を行なつた者に対しては刑罰が課されることとなつている(同法二五条)ところ、被告らの本件行為(一)並びに(三)ないし(五)の各行為は、右の強制権限と刑罰を背景になされたものであり、これを受ける者に対して事実上抗拒することができない影響力を及ぼすものであつたから、いずれも、公権力の行使に該当する行為であるというべきである。

(三)  また、都道府県は、処理法四条二項に基づき、当該都道府県の区域内における産業廃棄物の状況を把握し、産業廃棄物の適正な処理(保管又は処分)が行なわれるように必要な措置を講ずべき責務を負つているものであり、したがつて、

(1) 産業廃棄物処理業者が当該都道府県の区域内に集積した産業廃棄物について、(ア)当該都道府県が当該処理業者に対しこれを他の都道府県へ撤去し、他の都道府県において処理するように命令し、又は、その旨の行政指導をなすことは、当該都道府県の当該産業廃棄物の適正な処理についての指導、監督の責任を事実上放棄するものというべきであるから、特段の合理的理由がない限り、許されないものというべきであり、(イ)仮に合理的理由が存する場合であつても、当該産業廃棄物の適正な処理についての指導、監督の責任は、他の都道府県に対してこれを引き継ぐまでの間は、なお当該都道府県において負担しているのであるから、当該産業廃棄物を他の都道府県へ撤去し、他の都道府県において処理するように命令し、又は、その旨の行政指導をなすにあたつては、事前に、当該産業廃棄物が他の都道府県の何処の如何なる処理施設へ如何なる方法によつて運搬され、そこで如何なる処理がなされるのか、右処理施設までの運搬及び右処理施設における処理がいずれも適法かつ適正になされるものであるかについて調査しなければならず、それらがいずれも適法かつ適正になされること確認したうえでなければ当該産業廃棄物の他の都道府県への搬出を容認してはならず、当該処理業者が右確認のないまま当該産業廃棄物を搬出しようとする場合においては、これを阻止すべき法的作為義務が存する。

(2) 産業廃棄物処理業者が他の都道府県から当該都道府県の区域内に搬入しようとする産業廃棄物について、(ア)当該都道府県が当該処理業者に対し、その搬入を拒否し、他の都道府県へ運搬し、他の都道府県において処理するように命令し、又は、その旨の行政指導をなすことも、また、当該都道府県の当該産業廃棄物の適正な処理についての指導、監督の責任を事実上放棄するものというべきものであるから、前同様特段の合理的理由がない限り、許されないものというべきであり、(イ)仮に合理的理由が存する場合であつても、当該産業廃棄物の適正な処理についての指導、監督の責任は、他の都道府県に対してこれを引き継ぐまでの間は、なお当該都道府県において負担しているのであるから、当該産業廃棄物の搬入を拒否して、他の都道府県へ運搬し、他の都道府県において処理するように命令し、又は、その旨の行政指導をなすにあたつては、事前に、当該産業廃棄物が他の都道府県の何処の如何なる処理施設へ如何なる方法によつて運搬され、そこで如何なる処理がなされるのか、右処理施設までの運搬及び右処理施設における処理がいずれも適法かつ適正になされるものであるかについて調査しなければならず、それらがいずれも適法かつ適正になされることを確認したうえでなければ当該産業廃棄物の他の都道府県への運搬を容認してはならず、当該処理業者が右確認のないまま当該産業廃棄物を他の都道府県へ向けて運搬しようとした場合においては、これを中止させるべき法的作為義務が存する。

(四)  国もまた、処理法四条三項より、前項の都道府県の責務が十分に果たされるように必要な援助をなすべき法的作為義務を負つているのであり、都道府県と同様の注意義務を負担するというべきである。

8(一)(1) しかるに、被告宮城県は、第7項(三)(1)(ア)の合理的理由がなかつたにもかかわらず、本件行為(一)をなした。

(2) 仮に、被告宮城県が本件行為(一)をなすについて右の合理的理由があつたとしても、第7項(三)(1)(イ)の法的作為義務を怠つて、本件行為(二)をなした。

(二)(1) 被告愛媛県及び被告国は、第7項(三)(2)(ア)の合理的理由がなかつたにもかかわらず、本件行為(三)をなした。

(2) 仮に、被告愛媛県及び被告国が本件行為(三)をなすについて右の合理的理由があつたとしても、第7項(三)(2)(イ)の法的作為義務を怠つた。

(三)(1)  被告広島県及び被告国は、第7項(三)(2)(ア)の合理的理由がなかつたにもかかわらず、本件行為(四)をなした。

(2) 仮に、被告広島県及び被告国が本件行為(四)をなすについて右の合理的理由があつたとしても、第7項(三)(2)(イ)の法的作為義務を怠つた。

(四)(1)  被告香川県及び被告国は、第7項(三)(2)(ア)の合理的理由がなかつたにもかかわらず、本件行為(五)をなした。

(2) 仮に、被告香川県及び被告国が本件行為(五)をなすについて右の合理的理由があつたとしても、第7項(三)(2)(イ)の法的作為義務を怠つた。

9(一)  被告らは、本件行為(一)ないし(五)の各行為をそれぞれなした際、当該各行為によつて原告に本件損害が生ずることを予見していたか、少なくとも、これを予見し得たものである。

(二)  また、本件行為(一)ないし(五)の各行為は、相互に密接に関連してなされたものであり、それら一連の行為によつて本件損害が発生したものであるから、右各行為には、本件損害の発生に関して、関連共同性が存在するというべきである。

10  原告は、大邦実業の代表取締役西原釣より、同人と原告間の大阪地方裁判所昭和五二年(ワ)第五一一三号損害賠償請求事件について昭和五五年一一月一七日成立した裁判上の和解に基づき、本件損害のうちの本件損害(一)、(二)及び(四)の合計一三九〇万二二九九円に対する賠償金として、同年一二月二五日に五〇〇万円、昭和五六年三月一一日に一〇〇万円、同年四月一五日に二〇〇万円の合計八〇〇万円の支払いを受け、これが左記のとおり充当された結果、本件損害(一)、(二)及び(四)の賠償債務の残額は、昭和五六年四月一五日現在で、八二四万六一九九円となつた。

(一) 昭和五五年一二月二五日受領分の五〇〇万円

(1) 本件損害(一)、(二)及び(四)の賠償債務についての昭和五二年七月二〇日から昭和五五年一二月二五日までの間の年五分の割合による遅延損害金合計二三八万八一七八円

(2) 本件損害(一)、(二)及び(四)の賠償債務のうち、二六一万一八二二円(残額一一二九万〇四七七円)

(二) 昭和五六年三月一一日受領分の一〇〇万円

(1) 本件損害(一)、(二)及び(四)の賠償債務の残額一一二九万〇四七七円についての昭和五五年一二月二六日から昭和五六年三月一一日までの間の年五分の割合による遅延損害金合計一一万七五四四円

(2) 本件損害(一)、(二)及び(四)の賠償債務のうち、八八万二四五六円(残額一〇四〇万八〇二一円)

(三) 昭和五六年四月一五日受領分の二〇〇万円

(1) 本件損害(一)、(二)及び(四)の賠償債務の残額一〇四〇万八〇二一円についての昭和五六年三月一二日から同年四月一五日までの間の年五分の割合による遅延損害金合計四万九九〇一円

(2) 本件損害(一)、(二)及び(四)の賠償債務のうち、一九五万〇〇九九円(残額八二四万六一九九円)

よつて、原告は、国家賠償法一条一項及び民法七一九条一項による損害賠償請求権に基づき、被告ら各自に対し、二六九九万六一九九円及びこれに対する内金一八七五万円については訴状送達の日の翌日から、内金八二四万六一九九円については昭和五六年四月一六日からそれぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告宮城県)

1 請求原因1の事実について、(一)及び(二)は認める。なお、本件廃棄物の内容は、廃酸、廃アルカリ、廃溶剤(トリクレン)、廃グリース及び汚泥(有害物を除く。)などであつた。(三)のうち、被告宮城県の警察本部において、昭和五一年六月ころ、三基實業の担当者を処理法違反により摘発し、捜査を開始したこと、及び、三基實業の代表取締役が穴吹であつたことは認め、その余は否認する。(四)及び(五)は不知。(六)のうち、原告が、昭和五一年九月一九日、宮城県女川港に回航させた高共丸に同港で、本件廃棄物のうちの一部を積載させ、同日、同船を出港させたことは認め、その余は不知。なお、本件積荷の内訳は、ドラム罐入り一六七九本、石油罐入り一〇九本、プラスチツク容器入り一〇本であつた。(七)のうち、被告宮城県の環境衛生課の担当者が、本件積荷の高共丸への積載及び同船の出港に立会つて監視していたこと、同担当者がその間、原告ないし高共丸の関係者に対し、本件積荷が産業廃棄物であることを告げず、また、それについて注意、警告をなさなかつたこと及び同担当者が被告愛媛県に対し、高共丸が本件積荷を積載して同県に向かつている旨連絡したことは認め、その余は否認する。

2 同2の事実について、(一)のうち、高共丸が、昭和五一年九月二〇日、愛媛県今治港に寄港したことは認め、その余は否認する。行先変更の指示は、穴吹が原告に対し高共丸の女川港出港の直前になしたものである。(二)は不知。(三)は否認する。

3 同3の事実のうち、高共丸が、昭和五一年九月二三日、広島県尾道糸崎港に寄港したことは認め、その余は不知。なお、三原糸崎港とあるのは、港則法上、尾道糸崎港である。

4 同4の事実のうち、高共丸が、昭和五一年九月二五日、香川県小豆郡豊島に立ち寄り、同年一〇月二一日までの間、その海上で停泊を続けたことは認め、その余は不知。

5 同5の事実について、(一)は不知。(二)のうち、高共丸が昭和五一年一〇月二一日、香川県小豆郡豊島を出港し、同年同月二四日、北海道室蘭港に寄港し、同年一一月一六日までの間、同港の海上で停泊したことは認め、その余は不知。(三)のうち、高共丸が、昭和五一年一一月一六日、北海道苫小牧港に寄港したことは認め、その余は不知。(四)のうち、高共丸が、昭和五一年一一月二二日、東京港に寄港し、同港で本件積荷の荷揚げを完了したことは認め、その余は不知。

6 同6の事実のうち、原告が本件損害を被つたことは不知、その余は否認する。

7 同7の法律上の主張は、全て争う。

8 同8の(一)ないし(四)のうち、事実は否認し、法律上の主張は争う。

9 同9について、(一)の事実は否認する。(二)のうち、事実は否認し、法律上の主張は争う。

10 同10の事実は不知。

(被告愛媛県)

1 請求原因1の事実について、(一)は不知。(二)のうち、三基實業が、本件廃棄物を宮城県牡鹿郡女川町内に野積みのまま長く放置していたことは認め、その余は不知。(三)のうち、三基實業の代表取締役が穴吹であつたことは認め、その余は不知。(四)及び(五)は不知。(六)のうち、原告が昭和五一年九月一九日、高共丸を宮城県女川港に回航させ、同港で本件廃棄物のうちの一部を積載させ、同日出港させたことは認め、その余は不知。(七)は不知。

2 同2の事実について、(一)は不知。(二)及び(三)は否認する。

3 同3の事実のうち、被告広島県及び被告国が昭和五一年九月二三日、高共丸に対し、同船の広島県尾道糸崎港への入港及び同港での荷揚げを禁止する旨の命令又はその旨の行政指導をなしたことは否認し、その余は不知。なお、三原糸崎港とあるのは、港則法上、尾道糸崎港である。

4 同4の事実のうち、高共丸が昭和五一年九月二五日、香川県小豆郡豊島に立ち寄り、同年一〇月二一日までの間その海上で停泊を続けたことは認め、その余は不知。

5 同5の事実について、(一)は不知。(二)のうち、高共丸が、昭和五一年一〇月二一日、香川県小豆郡豊島を出港し、同年同月二四日、北海道室蘭港に寄港し、同年一一月一六日までの間、同港の海上で停泊したことは認め、その余は不知。(三)のうち、高共丸が昭和五一年一一月一六日、北海道苫小牧港に寄港したことは認め、その余は不知。(四)のうち、高共丸が、昭和五一年一一月二二日、東京港に寄港し、同港で本件積荷の荷揚げを完了したことは認め、その余は不知。

6 同6の事実のうち、原告が本件損害を被つたことは不知、その余は否認する。

7 同7の法律上の主張は、全て争う。

8 同8の(一)ないし(四)のうち、事実は否認し、法律上の主張は争う。

9 同9について、(一)の事実は否認する。(二)のうち、事実は否認し、法律上の主張は争う。

10 同10の事実は不知。

(被告広島県)

1 請求原因1の事実について、(一)は不知。(二)のうち、三基實業が本件廃棄物を宮城県牡鹿郡女川町内に野積みのまま長く放置していたことは認め、その余は不知。(三)のうち、三基實業の代表取締役が穴吹であつたことは認め、その余は不知。(四)及び(五)は不知。(六)のうち、原告が、昭和五一年九月一九日、高共丸を宮城県女川港に回航させ、同港で、本件廃棄物のうちの一部を積載させ、同日、出港させたことは認め、その余は不知。(七)は不知。

2 同2の事実について、(一)及び(二)は不知。(三)は否認する。

3 同3の事実のうち、被告広島県及び被告国が、昭和五一年九月二三日、高共丸に対し、同船の広島県尾道糸崎港への入港及び同港での荷揚げを禁止する旨の命令又はその旨の行政指導をなしたことは否認し、その余は不知。なお、三原糸崎港とあるのは、港則法上、尾道糸崎港である。

4 同4の事実のうち、高共丸が、昭和五一年九月二五日、香川県小豆郡豊島に立ち寄り、同年一〇月二一日までの間、その海上で停泊を続けたことは認め、その余は不知。

5 同5の事実について、(一)ないし(三)は不知。(四)のうち、高共丸が東京港で本件積荷の荷揚げを完了したことは認め、その余は不知。

6 同6の事実のうち、原告が本件損害を被つたことは不知、その余は否認する。

7 同7の法律上の主張は、全て争う。

8 同8の(一)ないし(四)のうち、事実は否認し、法律上の主張は争う。

9 同9について、(一)の事実は否認する。(二)のうち、事実は否認し、法律上の主張は争う。

10 同10の事実は不知。

(被告香川県)

1 請求原因1の事実について、(一)は不知。(二)のうち、三基實業が本件廃棄物を宮城県牡鹿郡女川町内に野積みのまま長く放置していたこと、及び付近住民から本件廃棄物は悪臭があるなどの苦情が出たことは認め、その余は不知。(三)のうち、三基實業の代表取締役が穴吹であつたことは認め、その余は不知。(四)及び(五)は不知。(六)のうち、原告が昭和五一年九月一九日高共丸を宮城県女川港に回航させ、同港で、本件廃棄物の一部を積載させ、同日、出港させたことは認め、その余は不知。(七)は不知。

2 同2の事実について、(一)及び(二)は不知。(三)は否認する。

3 同3の事実のうち、被告広島県及び被告国が、昭和五一年九月二三日、高共丸に対し、同船の広島県尾道糸崎港への入港及び同港での荷揚げを禁止する旨の命令又はその旨の行政指導をなしたことは否認し、その余は不知。なお、三原糸崎港とあるのは、港則法上、尾道糸崎港である。

4 同4の事実のうち、高共丸が昭和五一年九月二五日香川県小豆郡豊島に立ち寄り、同年一〇月二一日までの間、その海上で停泊を続けたこと、及び被告香川県が、原告に対し、豊島付近で本件積荷の荷揚げをしないように行政指導をなしたことは認め、その余は不知。

5 同5の事実について、(一)は不知。(二)のうち、高共丸が昭和五一年一〇月二一日香川県小豆郡豊島を出港し、同年同月二四日、北海道室蘭港に寄港し、同年一一月一六日までの間、同港の海上で停泊したことは認め、その余は不知。(三)のうち、高共丸が昭和五一年一一月一六日北海道苫小牧港に寄港したことは認め、その余は不知。(四)のうち、高共丸が昭和五一年一一月二二日東京港に寄港し、同港で本件積荷の荷揚げを完了したことは認め、その余は不知。

6 同6の事実のうち、原告が本件損害を被つたことは不知、その余は否認する。

7 同7の法律上の主張は、全て争う。

8 同8の(一)ないし(四)のうち、事実は否認し、法律上の主張は争う。

9 同9について、(一)の事実は否認する。(二)のうち、事実は否認し、法律上の主張は争う。

10 同10の事実は不知。

(被告国)

1 請求原因1の事実について、(一)及び(二)は認める。(三)のうち、被告宮城県の警察本部において、昭和五一年六月ころ、三基實業の担当者を処理法違反により摘発し、捜査を開始したこと及び三基實業の代表取締役が穴吹であつたことは認め、その余は否認する。(四)及び(五)は不知。(六)のうち、原告が昭和五一年九月一九日、高共丸を宮城県女川港に回航させ、同港で本件廃棄物のうち一部を積載させ、同日、出港させたことは認め、その余は不知。(七)は不知。

2 同2の事実について、(一)のうち、高共丸が、昭和五一年九月二〇日、愛媛県今治港に寄港したことは認め、その余は不知。(二)及び(三)は否認する。

3 同3の事実のうち、高共丸が、昭和五一年九月二三日、広島県尾道糸崎港に寄港したことは認め、右寄港が大邦実業の指示に基づくものであつたことは不知、その余は否認する。なお、三原糸崎港とあるのは、港則法上、尾道糸崎港である。

4 同4の事実のうち、高共丸が、昭和五一年九月二五日、香川県小豆郡豊島に立ち寄り、同年一〇月二一日までの間、その海上で停泊を続けたことは認め、右が大邦実業の指示に基づくものであつたことは、不知、その余は否認する。なお、高共丸の停泊した場所は、香川県小豆郡豊島水ヶ浦所在の私設桟橋付近である。

5 同五の事実について、(一)は不知。(二)のうち、高共丸が、昭和五一年一〇月二一日、北海道苫小牧港に向けて出港したが、途中荒天のため、急きよ荷揚地を変更して、同年同月二四日北海道室蘭港に寄港し、同年一一月一六日までの間、同港の海上で停泊したことは認め、その余は不知、(三)のうち、高共丸が、昭和五一年一一月一六日、北海道苫小牧港に寄港し、同港で、本件積荷のうち、ドラム罐七七本分を荷揚げしたことは認め、その余は不知、(四)のうち、高共丸が昭和五一年一一月二二日、東京港に寄港し、同港で本件積荷の残り全部を荷揚げしたことは認め、その余は不知。

6 同6の事実のうち、原告が本件損害を被つたことは不知、その余は否認する。

7 同7の法律上の主張は、全て争う。

8 同8の(一)ないし(四)のうち、事実は否認し、法律上の主張は争う。

9 同9について、(一)の事実は否認する。(二)のうち、事実は否認し、法律上の主張は争う。

10 同10の事実は不知。

第三証拠 <略>

理由

一1  請求原因1の(一)ないし(七)の各事実について判断するに、<証拠略>を総合すれば、次の(一)ないし(一二)の各事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない(但し、被告宮城県との関係では、請求原因1の(一)及び(二)の各事実、(三)のうち、被告宮城県の警察本部において、昭和五一年六月ごろ、三基實業の担当者を処理法違反により摘発し、捜査を開始したこと及び三基實業の代表取締役が穴吹であつたこと、(六)のうち、原告が、昭和五一年九月一九日、宮城県女川港に回航させた高共丸に同港で本件廃棄物のうちの一部を積載させ、同日同船を出港させたこと、(七)のうち、被告宮城県の環境衛生課の担当者が本件積荷の高共丸への積載及び同船の出港に立会つて監視していたこと、同担当者がその間原告ないし高共丸の関係者に対し、本件積荷が産業廃棄物であることを告げず、また、それについて注意警告をしなかつたこと及び同担当者が被告愛媛県に対し、高共丸が本件積荷を積載して、同県に向つている旨連絡したこと、被告愛媛県、同広島県、同香川県との関係では、同(二)のうち、三基實業が本件廃棄物を宮城県牡鹿郡女川町内に野積みのまま長く放置していたこと、(三)のうち、三基實業の代表取締役が穴吹であつたこと、及び、(六)のうち、原告が昭和五一年九月一九日宮城県女川港に回航させた高共丸に、同港で本件廃棄物のうちの一部を積載させ、同日同港を出港させたこと、被告国との関係では、同(三)のうち、被告宮城県の警察本部において、昭和五一年六月ごろ、三基實業の担当者を処理法違反により摘発し捜査を開始したこと及び三基實業の代表取締役が穴吹であつたこと並びに(六)のうち、原告が昭和五一年九月一九日高共丸を宮城県女川港に回航させ、同港で本件廃棄物のうちの一部を積載させ、同日同港を出港させたことはいずれも当事者間に争いがない。)。

(一)  三基實業は、一般廃棄物及び産業廃棄物の処理(収集、運搬及び処分)を営業目的として昭和四七年一〇月一一日設立された有限会社であり、代表取締役が穴吹であり、資本金三〇〇万円、従業員総数約六〇名で、本社を広島市に、支社を東京都と愛媛県にそれぞれ置いて、専ら産業廃棄物の処理を請け負つてその営業をなしていたものであるが、昭和五〇年半ばころ、負債を一億円前後抱えて事実上倒産するに至り、昭和五一年に入つてからは、その業務を収束するための残務整理としての営業を行なつていた。三基實業は、処理法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を、昭和五〇年四月一四日までに広島県、広島市、呉市、神戸市、福井県、東京都、川崎市及埼玉県より得ていた。

(二)  大邦実業は、三基實業が事実上倒産するに至つた後である昭和五〇年一〇月二七日、穴吹や三基實業の債権者らが中心となつて、実際上営業を継続することができなくなつた三基實業に代わつて同社の受注した産業廃棄物処理の業務をなし、それによつて得た収益で同社の債務の返済をしていくことを実質上の目的として設立された株式会社であり、代表取締役は、西原鈞であり、穴吹は常任相談役という地位にあつたが、大邦実業の営業は、事実上専ら穴吹が中心となつて行なつていたものであつた。大邦実業は、営業所を愛媛県今治市に置いていたが、処理法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可は、何処からも得ていなかつた。

(三)  原告は、海運業を営業の目的とした株式会社であり、資本金二四〇万円で、本社を大阪府堺市に、主たる営業所を大阪市に置いていたが、処理法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可は、何処からも得ていなかつた。

(四)  三基實業は、昭和五〇年六月二三日ころと同七月一三日から同一五日までの間の二回にわたり、本件廃棄物(ドラム罐入など合計約二一二〇本)を、宮城県牡鹿郡女川町石浜字高森一三五所在の三徳商会所有の同商会女川油槽所敷地に搬入して野積みにした。本件廃棄物の内容は、廃溶剤(トリクレン)、廃酸、廃アルカリ、廃グリース及び汚泥などであり、これらは、日立製作所茨木工場外約一三の事業所がその事業活動に伴つて排出したもので、三基實業の東京支社が、辰己産業外約三の運送業者よりそれらの処理の委託を受け当初、神奈川県横浜市・鶴見区のフオード社所有の空地を賃借して、そこで保管していたものであつたが、昭和五〇年六月ころ、地元の消防署より、廃油類の置場としては、消防法上、コンクリートを打設して消火栓を設置するなどの必要があるが、右空地にはそれらの設備がないことなどの理由から、消防法違反の貯蔵であるとして、本件廃棄物を早急に撤去するよう勧告を受けたため、三基實業の東京支社長の鈴木幸雄と親交のあつた今野謹三が代表取締役をつとめる三徳商会の右敷地に搬入されたものであつた。なお、右搬入は、三基實業東京支社が三伸運輸株式会社に委託して行なつたものであるが、同社は、処理法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を東京都では受けていたが、被告宮城県では受けていなかつた。

(五)  被告宮城県の石巻保健所は、昭和五〇年七月二一日、女川町の環境衛生課より、本件廃棄物の同町への搬入についての連絡を受けたため、同日、直ちに現地調査をなし、三基實業及び三徳商会の関係者より、実情聴取をなし、右搬入及びその経緯を確認した。同保健所及び被告宮城県の環境衛生課は、その後同年八月上旬ころまでの間に、逐次、三基實業に対し、同社が宮城県知事より処理法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を受けていないから、本件廃棄物の女川町への搬入は処理法違反であり、同社が以後宮城県内で産業廃棄物の処理を行なうときは右許可を受けること、本件廃棄物については、これを早急に女川町より撤去すること、本件廃棄物の処分は処理法一四条一項に基づく許可を受けた産業廃棄物処理業者(以下「許可業者」という。)に委託してなすこと及びその処分の見通しがつくまでの間は、本件廃棄物を他に移動しないことなどを指導し、同社に対し、県内の許可業者として三丸製薬合資会社や仙台衛生工業などの業者を紹介したところ、三基實業は、被告宮城県に対し、右指導に従うことを承認し、本件廃棄物を同年八月末日までに女川町から撤去する旨約するとともに、本件廃棄物のうち、廃溶剤については三丸製薬に、その余については当初は仙台衛生工業に、後には青森県八戸市の太平洋金属などの許可業者にそれぞれ処理を委託する旨報告していた。

(六)  本件廃棄物は、女川町への搬入当初より、その一部の容器が破損して内容物が一部漏出するとともに、付近に強い悪臭を放つており、付近住民からも女川町に対し再三にわたつて苦情が出され、適切な措置をなしてくれるよう要請がなされていた。

(七)  三基實業は、同年八月の六日、九日及び一〇日の三日間にわたり、本件廃棄物のうちドラム罐約二五一本分を、東京ケミカル株式会社に委託して処理したのみで、その余の分については、処理を進めることができなかつた。三基實業の代表取締役穴吹は、昭和五〇年八月二〇日ころ、初めて、石巻保健所に来所し、同保健所に対し、本件廃棄物の女川町への搬入の経緯を説明するとともに、本件廃棄物については、専門家を女川町へ呼び、その内容物を識別してもらい、タンカーに積載できるものはタンカーで、ドラム罐が腐蝕するなどして不安な状態にあるものは、固型化し、その固型化が出来ないときはヒユーム管でコンクリート固型化して陸上運送で、ドラム罐が安全な状態のものはそのまま海上運送又は陸上運送で、それぞれ東京へ運搬し、そこで処分するので、本件廃棄物の女川町からの撤去の期限を昭和五〇年九月中ごろまで猶予してほしい旨申し出、被告宮城県は、これを了承した。その後、三基實業は、自ら又は三徳商会を介して、昭和五〇年九月下旬ころまでの間に、数回にわたつて、被告宮城県に対し、本件廃棄物を東京へ運搬するための船舶を手配したから、その船を女川港に回航させる旨の連絡をしたが、これを実現させず、同年一〇月以降はその連絡さえしなくなり、また、穴吹もその所在が不明となつたため、本件廃棄物は、そのまま前示場所に野積みのまま放置されるに至つた。

(八)  その後、被告宮城県及び女川町は、昭和五一年五月二七日、本件廃棄物の保管状況について、再度の現地調査をなしたうえで、三徳商会に対し、本件廃棄物を早急に女川町から撤去する対策を講ずるよう要請したところ、三徳商会は、被告宮城県及び女川町に対し、本件廃棄物のうち、昭和五〇年六月二三日ころ搬入された分については責任をもつて撤去する。同年七月一三日から一五日までの間に搬入された分については穴吹との交渉を再開して三基實業に早急に撤去させるよう努力する旨約した。

穴吹は、昭和五一年五月三一日になつて、再び消息を明らかにし、被告宮城県に対し、電報により、本件廃棄物の撤去を早急になすべく対策を講じている旨連絡をなしてきたが、具体的な対策を何ら示さなかつた。石巻保健所は、昭和五一年六月二日には、三徳商会に対し、処理法施行規則八条一項に基づき本件廃棄物について飛散、流出、地下への浸透及び悪臭の発散のおそれのない状態で保管するよう要請した。その後、三徳商会は、昭和五一年六月八日及び一七日の二回にわたり、本件廃棄物のうち、特に悪臭のひどいもの(一一トンバキユームカー二台分)を東京ケミカル株式会社に委託してその処理をなした。また、昭和五一年六月中ごろになつて、被告宮城県の警察本部は、三基實業の担当者を処理法違反により摘発し、捜査を開始するという事態となつた。

(九)  石巻保健所は、昭和五一年六月一八日及び一九日の二日間にわたつて穴吹より事情聴取をなし、本件廃棄物の女川町からの撤去を同八月末日までに完了するよう要請したところ、穴吹は、同保健所に対し右要請に応ずることを約するとともに、本件廃棄物は再生利用が可能であり、自分が常任相談役をつとめている大邦実業名で韓国へ輸出することについての通商産業大臣の承認が得られたのでその通り輸出する旨報告し、その輸出承認を受けて書類を提示したので、同保健所を含む被告宮城県の担当職員はこれを了承した。

(一〇)  ところが、穴吹は、昭和五一年八月一〇日になつて、被告宮城県に対し、本件廃棄物は品質の不良及び不統一のため再生利用不可能と判明し、韓国への輸出も不可能となつたこと、したがつて、三基實業はこれを広島県まで海上運搬し、広島県において最終処分をなすことの連絡をなし、同年八月一八日には、その運搬のための船舶として、有限会社西原海運所有の第一八求伸丸を同年同月二三日ころ女川港に回航させる旨の連絡をなした。そこで、被告宮城県の環境衛生課の担当職員は、昭和五一年八月二一日、穴吹に対し、聴聞をなし、本件廃棄物の女川町への搬入の経緯の詳細、本件廃棄物を一年余の間にわたつて放置していた理由及び本件廃棄物の女川町からの撤去計画の具体的内容などを聴取したが、その際、穴吹は、同職員に対し三基實業は広島県、広島市、呉市、神戸市、福井県、東京都、川崎市、埼玉県及び新潟県で処理法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を得ているが、現在すでに事実上倒産状態にあり、その営業をほとんどしていないこと、本件廃棄物の女川町からの撤去は大邦実業の支援を受けて三基實業が行なうこと、本件廃棄物は広島県へ海上運搬し、同県の海上でこれをはしけに転載してしばらく倉橋島の港内で海上保管をなし、その最終処分のための用地を確保してから、同県の倉橋島に荷揚げをなすこと、本件廃棄物は広島県で最終処分するが、その方法として本件廃棄物のうち、廃油類は焼却処分をなし、有害物質等の含有物が発見されたものは速やかにコンクリートで固型化し、廃酸及び廃アルカリなども、それぞれ適法かつ適正な処理をなすことなどを報告した。その後、穴吹は、右第一八求伸丸の手配に失敗し、昭和五一年八月二一日になつて、被告宮城県に対し、新泉海運株式会社所属の第八蘭丸を同年同月三一日ころ女川港へ回航させる旨の連絡をしたが、同年九月一日になつて、同船の女川町への回航のとりやめを連絡した。

(一一)  その後穴吹は、本件廃棄物をいつたん愛媛県大三島港まで海上運搬し、同港ではしけに転載して広島県倉橋島の湾まで曳航し、倉橋島に用地を確保するまでの間、同湾でそのまま海上保管する旨の計画をたて、昭和五一年九月一三日ころ大邦実業名で原告に対し本件廃棄物について単に廃油関係入りのドラム罐合計一五〇〇ないし一七〇〇本であると説明し、これを宮城県女川港から愛媛県大三島港まで海上運搬することを代金一二〇万円で委託する旨申込みをなしたところ、原告は、穴吹に対し右申込みを承諾し、その運搬をなす船舶として原告所属の高共丸を配船し、同船を同年同月一七日ころ女川港に回航させる旨通知した。そして穴吹は、同月ころ被告宮城県に対し、本件廃棄物の運搬につき、原告所属の高共丸を手配することができ、同船を同年同月一七日ころ女川港に入港させる旨連絡した。

(一二)  高共丸は、昭和五一年九月一六日午後七時ころ、女川港に入港し、同年同月一七日から一九日までの間に本件積荷を積載し、同年同月一九日午後七時四〇分ころ、同港を出港した。本件積荷は、ドラム罐入り一七二六本、石油罐入り一〇九本及びプラスチツク容器入り一〇本の合計一八四五本であり、本件廃棄物のうち、容器が破損したり、船に積載できない形状のものは積残しにされたが、右積残し分については、三基實業の鈴木は、右積載の際に、被告宮城県の担当職員に対し、同社がこれを仙台衛生工業に委託して処分する旨説明した。本件積荷の高共丸への積載は、全て三基實業東京支社の支社長鈴木と同支社の従業員の斉藤の二人の指図によつて行なわれた。右積載の間、被告宮城県の職員が終始、これに立会つていたが、その間、同職員は、原告及び高共丸の関係者に対し、本件積荷が産業廃棄物であることを告げず、また、それについて格別の注意、警告をなさず、更に、本件積荷の荷揚地、荷送人及び荷受人並びに荷送人又は運搬業者の処理法一四条一項に基づく許可の有無等について何の確認もしなかつた。被告宮城県の職員は、本件積荷の高共丸への積載もほぼ完了し、出港間際になつた午後七時二〇分ころ、本件積荷関係者同志の電話のやりとりの様子から高共丸が愛媛県へ向つて出港する旨を察知したため、被告愛媛県に対してその旨通報した。

2  同2の(一)ないし(三)の各事実について判断するに、<証拠略>を総合すれば、次の(一)ないし(六)の各事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない(但し、被告宮城県、同国との関係では、高共丸が昭和五一年九月二〇日愛媛県今治港に寄港したことについては、当事者間に争いがない。)。

(一)  被告愛媛県の公害課の職員は、昭和五一年九月二一日、被告宮城県の環境衛生課より、代表取締役穴吹の三基實業が原告所属の高共丸に産業廃棄物である本件積荷を積載し、愛媛県今治港に行く旨及び同船が昭和五一年九月一九日、午後七時四〇分宮城県女川港を出港したが、本件積荷の内訳は廃油入りドラム罐約一六〇〇本、廃酸及び廃アルカリ入りドラム罐約五〇本、廃グリス入りドラム罐約五〇本、汚泥入りドラム罐約一〇〇本である旨の通報を受けた。

(二)  右通報を受けた被告愛媛県の公害課の職員が、その内容について調査したところ、三基實業は、被告愛媛県では、処理法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を受けていないこと、被告愛媛県内において廃油処理施設を有する許可業者としては、当時、日本マリンオイル株式会社及び株式会社住友クリーンオイルセンターの二社があつたが、両社とも、右高共丸で運搬中の本件積荷について、誰からもその処分の委託を受けておらず、また、急にその処分の依頼を受けてもこれに早急に対応することは困難であること、三基實業は、昭和五〇年一〇月にも、他から油分及びPCBを含んだ製紙スラツジを海洋投棄することを請負い、これを積載したパージ船を愛媛県川之江港から出港させたが、右海洋投棄について海上保安部の許可が得られず、その処分の目途のないまま瀬戸内海の海域を転々と航行させたことがあつたこと、及び高共丸は、昭和五一年九月二二日、午後四時ころ、愛媛県今治港に入港する予定であることなどが判明した。

(三)  そこで、被告愛媛県の公害課の職員は、昭和五一年九月二二日午後一時ころ三基實業の代表取締役穴吹の出頭を求め、同人から本件積荷を今治港に運搬するに至つた経緯及び本件積荷の処理計画について事情聴取をしたところ、穴吹は、同職員に対し、本件積荷は産業廃棄物であり、これを運搬しているのは三基實業であるが、本件積荷の荷受け人は大邦実業であり、大邦実業は本件積荷を今治港でパージ船に転載し、一時愛媛県大三島付近の海上で保管するが、広島県の倉橋島に焼却処分のための用地が確保でき次第、右パージ船を倉橋島まで曳航し、同所で荷揚げして処分をなす予定であることなどを申し述べた。被告愛媛県の公害課の担当職員が調査したところ、大邦実業は、愛媛県内で処理法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を受けていないことが判明した。

(四)  そこで、被告愛媛県の公害課の担当職員は、穴吹に対し愛媛県内で産業廃棄物の運搬や保管等処分を行なうには愛媛県知事の処理法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を受けることが必要であるが、三基実業はもとより大邦實業も愛媛県知事より右許可を受けていないので、本件積荷の運搬や保管を愛媛県内でなすことは処理法違反であること、したがつて高共丸の今治港への接岸は中止するとともに、同船を今治港及び愛媛県の海域よりすみやかに撤船させるようにすること、またパージ船による海上保管は危険であるから、本件積荷のパージ船への転載も中止すること、本件積荷の処理は合法的になすこと、などを要請した。これに対し、穴吹は、被告愛媛県の公害課の担当職員に対し、本件積荷の処理については被告愛媛県の要請を受け容れ、三基實業が広島県で処理法による産業廃棄物処理業の許可を受けているので、本件積荷を同県内で処分するため、本件積荷を積載した高共丸を広島県の尾道糸崎港へ回航させることにすることなどを申し出た。

(五)  しかして、高共丸は、昭和五一年九月二二日午後四時半ころより、穴吹の指示を受けて、今治港外の壬生川沖に停泊していたが、翌日、午前一〇時五〇分ころ、再び穴吹の指示により、同壬生川沖を離れ、広島県の尾道糸崎港に向かつた。

(六)  なお、第六管区海上保安本部及び今治海上保安部は、昭和五一年九月二四日ころ、原告所属の高共丸が三基實業の委託を受けて産業廃棄物である本件積荷を積載して同年同月二二日ころ、愛媛県今治港に入港する予定である旨の情報を察知したため、第六管区海上保安本部は、原告に対し、本件積荷の内容物及び運送経緯について電話照会をなしたところ、原告は、高共丸は、同午後四時ころ、今治港に入港し、同港で本件積荷の荷揚げをする予定である旨申し述べた。また、今治海上保安部は、昭和五一年九月二二日三基實業の代表取締役穴吹から事情聴取をなしたところ、同人は、本件積荷は今治港でパージ船に転載し、一時、愛媛県大三島近くの海上で保管するが、広島県の倉橋島に焼却処分のための用地が確保でき次第、右パージ船を倉橋島まで曳航し、同所で荷揚げして処分をなす予定であることなどを申し述べた。そこで、同保安部は、同人に対し、パージ船による高共丸に対する海上保管は危険であるので、三基實業は本件積荷の今治港での荷揚げは中止し、今後の措置については、被告愛媛県の指導を受けることなどを指示したが、その後の今治港における措置は前記のとおり全て被告愛媛県がなした。

3  同3の事実について判断するに、<証拠略>を総合すれば、次の(一)ないし(五)の各事実を認めることができ、他に右認定を覆するに足る証拠はない(但し、被告宮城県、同国との関係では、高共丸が昭和五一年九月二三日広島県尾道糸崎港に寄港したことについては、当事者間に争いがない。)。

(一)  被告広島県の環境整備課の担当職員は、昭和五一年九月二三日午後零時二〇分ころ、尾道海上保安部より、三基實業が、原告所属の高共丸に産業廃棄物である本件積荷を積載し、同年同月一九日午後、宮城県女川港を出港し、同年同月二二日愛媛県今治港において荷揚げをしようとしたが、これができなかつたため、同年同月二三日午後二時四〇分ころ広島県尾道糸崎港に入港して本件積荷の荷揚げ又は、パージ船への積み換えをなすもようである旨の通報を受けた。

(二)  そこで、被告広島県の担当職員は、県内で本件積荷の処理能力を有すると目される瀬戸内海タンククリーニング株式会社及び神原タンククリーニングサービス株式会社の二社に対し、照会したところ、両社とも三基實業から本件積荷についての処理の委託を受けておらず、また、仮にその委託があつたとしても、両社ともそれを受託する意思はない旨の回答をした。

(三)  三基實業は、昭和四九年一月三〇日広島県知事より、処理法一四条一項に基づき、廃油、廃酸、廃アルカリ及び汚泥の収集並びに運搬の業務を行なうことの許可を受けていた会社であるが、昭和五〇年二月出所不明の廃油入りドラム罐等を広島県安芸郡倉橋町の個人所有地に荷揚げして、許可外の保管をなし、同年一〇月には、愛媛県川之江市の製紙会社から排出された製紙スラツジを船舶に積載し、処分の目途もないまま瀬戸内海を転々とし、昭和五一年四月には、同社が産業廃棄物の貯蔵船として使用していた朝顔丸を廃油入りドラム罐数百本を積載したまま広島県安芸郡音戸町藤脇造船所沖合に一年以上も停泊させて放置するなどの行為をなしていたうえ、同社の営業所の所在地とされていた広島市土橋町六番一四号にも、県内のどこにも同社の営業所がなく、更には、同社はそもそも産業廃棄物処理業者として処理法一四条二項に定める技術上の基準に適合する設備、人材及び能力を有していないと認められるなどの事情があつたことから、被告広島県としては、昭和五一年五月一〇日ころより、同社に対する産業廃棄物処理業の許可の取消を検討していたところであつた。

(四)  そのため、被告広島県の担当職員は、本件積荷についても、被告広島県が三基實業に対して処理計画不明のままにその荷揚げを認めたならば、そのまま放置されるおそれが多分にあるものと考え、同社の代表取締役穴吹から事情聴取をしようとしたのであるが、同人の所在が不明でこれと連絡もとれなかつたため、昭和五一年九月二四日尾道海上保安部の職員とともに尾道糸崎港に停泊中の高共丸を訪れ、同船の中村又一船長から事情聴取をなすとともに、本件積荷の積載状況についても同船長の承諾を得て、任意調査したところ、本件積荷の荷送人は穴吹薫、荷受人は大邦実業ということであつたが、三基實業と大邦実業の関係、本件積荷の内容物の性状及びこれらの広島県内での処理計画が不明であつた。そのため、被告広島県の担当職員は、このまま、本件積荷の荷揚げを認めた場合、前記のとおり荷揚後本件積荷を放置され、付近住民の生活環境に被害を生ずるおそれがあると考え、同船長に対し、本件積荷の処理計画が明らかになるまで荷揚げは認められない旨荷主に伝えるよう指示した。なお、その際、中村船長は、被告広島県の担当職員に対し、高共丸は、同年九月二五日に、大阪港で荷積をして運送する別の業務があるので、できれば本件積荷を尾道糸崎港で荷揚げして大阪港へ向かいたい旨申し述べていた。そして、被告広島県の担当職員において、本件積荷の扱い方について検討をしていたところ、昭和五一年九月二五日午前六時ころ、高共丸は、穴吹の指示により、尾道糸崎港を出港し、香川県小豆郡土庄町豊島に向かつた。なお、高共丸は、穴吹の指示により尾道糸崎港に入港しようとしたのであるが、穴吹の右指示は尾道糸崎港でしばらく待機せよというものであつたものにすぎず、また穴吹自身、尾道糸崎港で本件積荷をいかに処置するかについての計画さえ定めていなかつた。

(五)  なお、高共丸が、広島県尾道糸崎港に入港した昭和五一年九月二三日、尾道海上保安本部の海上保安官は、海上保安庁法一七条一項に基づき、高共丸に立入検査を実施し、更に翌二四日、被告広島県に対し、本件積荷の処理に関する行政指導を責任をもつて行なうよう要望し、同被告はこれを了承した。しかして、尾道糸崎港における高共丸に関する措置は前記のとおり、全て被告広島県がなした。

4  同4の事実について判断するに、<証拠略>を総合すれば、次の(一)ないし(四)の各事実を認めることができ、他に右認定を覆するに足る証拠がない(但し、被告全員との関係で、高共丸が昭和五一年九月二五日香川県小豆郡豊島に立ち寄り、同年一〇月二一日までの間その海上で停泊を続けたこと、被告香川県との関係で、同被告が原告に対し豊島付近で本件積荷の荷揚げをしないように行政指導をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。)。

(一)  被告香川県の環境総務課の担当職員は、昭和五一年九月二一日、被告愛媛県の担当職員より、廃油等の産業廃棄物を積載した船舶(高共丸)が、愛媛県に向かつているらしい旨の連絡を受け、その後、同年同月二五日正午ころには、高松海上保安部より、廃油等の産業廃棄物を積載した船舶(高共丸)が、被告香川県小豆郡土庄町豊島に向かつている旨の連絡を受けた。そこで、被告香川県の担当職員は、直ちに、高松海上保安部に赴き、同保安部より事情聴取をなすとともに、高共丸に対し、無線連絡をなしたところ、同船には、豊島在住の松浦庄助が同乗しており、同人は三基實業の代表取締役穴吹の依頼を受けて、本件積荷を豊島において一時保管する予定である旨申し述べた。ところが、被告香川県において調査をなしたところ、松浦庄助は香川県知事より処理法一四条一項に基づく産業廃棄物処理業の許可を受けておらず、また、香川県内には、当時廃油、廃酸及び廃アルカリの処理施設は全く存在しなかつたので、本件積荷が豊島に荷揚げされた場合、他の都道府県の適切な処理施設において最終処分をなす目途がたつまでの間、松浦庄助の倉庫において放置されることが予想される状況であつた。

(二)  被告香川県の担当職員は、右のような状況の下では、本件積荷は、適切な処理施設のある都道府県において処理することが最適であるとの理由から高共丸の中村又一船長及び松浦庄助に対し、本件積荷を豊島に荷揚げしないよう要請するとともに同日、午後三時ころ、三基實業の代表取締役穴吹に対し、右同様の理由から本件積荷を豊島に荷揚げしないよう要請したところ、穴吹は、これを承諾した。更に、被告香川県の担当職員は同日、午後九時ころ、原告の代表取締役山本和間に対しても右同様の理由から、本件積荷を豊島に荷揚げしないよう要請した。更に、被告香川県の担当職員は、西日本における廃油処理施設を調査し、被告愛媛県及び兵庫県などに対し、本件積荷の処理方策についての検討を依頼するとともに、穴吹及び原告に対し、東北海道廃油処理センターなどの処理施設があることを連絡する一方、厚生省とも連絡をとつて、本件積荷の処理方策を検討した。しかるに、東北海道廃油センターなどの処理施設は、いずれも本件積荷は油分が少ないことやその処理費用について三基實業との間で話し合いがつかなかつたことなどからその処理の受託を拒絶した。

(三)  三基實業の代表取締役穴吹は、被告香川県の担当職員に対し、再三、期限を定めて最終処理地に向けて出港し、本件積荷を責任をもつて処理する旨誓約したが、これらはいずれも遵守されず、その後、昭和五一年一〇月二一日高共丸は被告香川県に対し行方を明らかにしないまま豊島を出港するに至つた。

(四)  なお、高共丸が宇野港沖で停泊していた昭和五一年九月二五日午後零時一〇分ころ、玉野海上保安部は、高共丸の中村又一船長より、穴吹の指示でこれより香川県小豆郡土庄町豊島に向うが、これは、豊島の松浦庄助の倉庫に本件積荷を一時保管するためである旨の連絡を受けた。そこで、同保安部は、松浦庄助に照会をしたところ、同人は穴吹の依頼により本件積荷の一時保管を受諾した旨、告げた。その後、高松海上保安部は、高共丸が本件積荷を海洋投棄しないよう同船の動静監視にあたるとともに、穴吹に対し、本件積荷を早急に荷揚げすること、豊島への荷揚げは、被告香川県の許可を得てすること及びその旨被告香川県の担当課に連絡をなすことを指示した。しかして、その後の豊島における高共丸に関する措置は、前記のとおり、被告香川県がなした。

二  以上認定の事実によれば、被告宮城県の担当職員は、三基實業に対し、同社が本件廃棄物を女川町に搬入した当初より、本件廃棄物を同町より早急に撤去するとともに、本件廃棄物の処分を許可業者に委託して行なうようくり返し行政指導をなし、県内の許可業者を紹介するなどしたところ、同社の代表取締役穴吹は、右被告宮城県の行政指導に従つて、本件廃棄物を女川町より撤去することを同被告に誓約し、最終的には、広島県内において処分することとし、そのための海上運搬を大邦実業名で原告に委託したものであること、被告愛媛県の担当職員は、三基實業の代表取締役穴吹に対し高共丸が愛媛県今治港に寄港しようとした際、高共丸の今治港への接岸中止及び同船の今治港及び被告愛媛県の海域よりの撤船などの行政指導をなしたのに対し、穴吹は、右被告愛媛県の行政指導に従つて、高共丸を今治港外から広島県尾道糸崎港に向けて航行させたものであること、被告広島県の担当職員は、高共丸の中村船長に対し、本件積荷の処理計画が明らかになるまで尾道糸崎港での荷揚げをしないよう行政指導をしたが、中村船長は三基實業の代表取締役穴吹より、高共丸を尾道糸崎港でしばらく待機させよとの指示を受けて同港に寄港させ、その後同港で積荷を荷揚げすることについての指示を受けることなく、同人の指示により高共丸を尾道糸崎港から出港させたものであること、被告香川県の担当職員は、高共丸の中村船長、三基實業の代表取締役穴吹及び原告の代表取締役山本和間らに対し、本件積荷を豊島に荷揚げをしないように行政指導をなしたのに対し穴吹らは、右指導に従つて本件積荷の荷揚げを中止し、その後、昭和五一年一〇月二一日、高共丸は、被告香川県に対し、行方を明らかにしないまま豊島を出港するに至つたものであること、被告国の今治海上保安部の海上保安官は、高共丸の今治港入港の際に、三基實業の代表取締役穴吹に対し、本件積荷の今治港での荷揚げは中止し、今後の措置については被告愛媛県の指導を受けるよう行政指導をなしたものであり、被告国の高松海上保安部の海上保安官は、高共丸の豊島立ち寄りの際に、穴吹に対し、本件積荷の豊島への荷揚げは被告香川県の許可を得てなすことなどを行政指導したものであることがいずれも認められる。

三  ところで、国家賠償法一条一項の公権力の行使とは、国又は公共団体の作用のうち、純然たる私経済作用と同法二条にいう公の営造物の設置、管理の各作用を除くすべての作用を指称すると解するのが相当であるから、被告らの担当職員ないし係官のなした本件行政指導は、右公権力の公使に該当するというべきである。しかして、行政指導は、行政目的を達成するため行政客体の一定の行為を期待する行政機関が、行政客体に対し、その自発的な協力、同意のもとに右行為をするよう働きかける事実行為であり、これが、違法と評価されるのは、当該行政指導がこれをなした行政機関の権限外のもので恣意的になされたものであり、若しくはその手段又は内容が実定法規則又は条理に反して著しく不合理なものであると認められる場合であると考えられるところ、被告らの前記各担当職員ないし係官のなした前記認定の各行政指導については、前判示の事実関係に徴し、被告らの権限の範囲外の、恣意的になされたものであることやその手段及び内容においても著しく不合理なものであつたとみるべき形跡を全く認めることができない。

四  また、原告の処理法四条二項に基づく法律上の作為義務違反の主張については、同法の右条項は、都道府県の区域内に存在する産業廃棄物の処理に関し、当該都道府県がその区域内の住民全般に対して負うべき、一般的抽象的な義務ないし行政的責務を明らかにしたものであつて、都道府県が特定の場合に特定の住民に対し、特定の行政指導等をなすべき具体的な法律上の作為義務を定めたものとは解することはできない。したがつて、都道府県がその区域内に存在する産業廃棄物について適正な処理が行なわれるようにするために具体的に如何なる行政措置を講ずべきかは、原則として当該都道府県の公益的見地に立つた行政的、技術的裁量に委ねられているものというべきであり、当該都道府県が右の行政的責務の範囲内に含まれる特定の行政指導等をしないことが違法と評価されるのは、右の一般的抽象的な義務ないし行政的責務に著しく違反する場合、すなわち、右の行政的責務の対象領域において、個々の住民の生命、身体又は財産などの生活利益に対する侵害ないし差し迫つた危険が存在し、これが受忍限度をこえた程度のものであるときは、当該都道府県の右行政指導等がなければ、右住民の生活利益に対する侵害ないし危険を除去できない状況にあるなどの特段の事情が存する場合であると考えられるところ、本件においては、前判示の事実関係に徴し、本件積荷の高共丸による女川港からの搬出に際しては被告宮城県が、今治港からの搬出に際しては被告愛媛県が、尾道糸崎港付近からの搬出に際しては被告広島県が豊島付近からの搬出に際しては被告香川県が、原告ないし高共丸の関係者に対して、本件積荷の県外への搬出を止めるように行政指導等をするのでなければ除去できない廃棄物処理に関する侵害ないし差し迫つた危険が原告ないし高共丸の関係者の生活利益について発生していたものとは認められず、原告の右主張は、理由がないものというべきである(なお、前記認定のとおり、高共丸の中村船長は、尾道糸崎港に入港した際、被告広島県の担当職員に対し、高共丸には同年九月二五日に大阪港で本件積荷とは別の荷積をして運搬する義務があり、このまま本件積荷の運搬を継続すれば、経済的損失を招く旨を告げて、本件積荷を尾道糸崎港で荷揚げしたい旨申し述べている事実があり、右事実によると、同港での荷揚げができないことにより運搬費用が増加する事情にあり、被告広島県がこの事情を知つていたものということができ、また、これも前記認定のとおり、高共丸は、本件積荷の処理計画が定まらないまま、長期間、豊島沖で停泊させざるをえないこととなり、それによつて多額の運搬経費の発生したことが認められるけれども、右運搬経費の増加による損失は、専ら、原告とその運搬委託者(本件では三基實業若しくは大邦実業)との間の運送契約によりその負担を定めれば足りる一般の取引事項であつて、産業廃棄物の処理に関する侵害ないし危険とは無関係であるから、右運搬経費の増加の事情をもつて、被告らに前記作為義務を認めるべき特段の事情とみることはできない。)。

五  また、原告の処理法四条三項に基づく法律上の作為義務違反の主張については、国は、同法条に基づき原告が主張するような特定の行政指導等をなすべき法律上の具体的な作為義務を負うものと解する余地はないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の右主張は理由がない。

六  そうすると、原告の被告らに対する各請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

七  よつて、原告の被告らに対する本訴請求は、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上清 宮城雅之 田近年則)

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